ラーメンを食べに行こう!
〈20〉

 あと十五分で店は閉店のはずだった。七時までに入店すればオーダーは受け付けてくれると思うが、それにしても急いだほうがいい時間だ。浅見の足なら走って三分、歩いても十分もかからない。

(新月はずいぶんとラーメンを楽しみにしていたから、食べられなくなるのはマズイよな。そうすると、新月が戻ってきたら少し急いで移動したほうがいいか)

 空の雲の動きを見ながら、浅見は考える。

(それにしても、新月の奴、本当にラーメンが好きなんだな……)

 残っていた炭酸飲料を飲み干し、近くのゴミ箱に投げ入れると、丁度、小鳥が店員に頭を下げながら書店を出てきたのが見えた。浅見は彼女に声をかけて自分の位置を知らせようとした。

 それとほぼ同時に、アスファルトにぽつぽつぽつと雨粒が落ち、数秒後には先ほどまでの天気が嘘のような夕立が商店街をおそった。

 浅見は小鳥に声をかける前に、近くにあった八百屋の店先に避難した。すぐに移動したつもりだったが、頭や肩が思ったよりも濡れていた。小鳥を見ると、書店の入り口でおろおろと辺りを見回していた。浅見を探しているのだろう。

「新月ー! こっち!」浅見は雨の音に消されないよう、大声で呼びかけた。

「浅見くーん、夕立です! どうしましょう!」小鳥も大声で返してきた。

 浅見は考えた。この雨が止むのにどれだけかかるかわからない。夕立だと思うので、長くはないだろうが、それでも閉店までに間に合うとは思えなかった。

 ……今回は諦めよう、と浅見は思った。

「新月ー、ラーメン屋はもうすぐ閉店だから、この雨のなかじゃ……」そこまで言ったところで、雨がさらに激しくなった。大粒の雫がアスファルトに叩きつけられている。傘を持っていたとしてもこの雨の中を移動するのは一苦労だろう。気付けば、商店街からはすっかり人気が減っている。みんな屋根のある場所に避難したのだろう。

 浅見としても、自分が小鳥のいる場所まで走っていき、そこで雨が落ち着くまで雨宿りするつもりだった。ラーメンはお流れになってしまったが、何か他の店で二人でご飯を食べて帰ろう、と。

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