ラーメンを食べに行こう!
〈19〉

 ピッ、ガシャン。

 受け取り口に落ちてきた炭酸飲料を取り出すと、すぐに封を開けて半分ほど一気に飲んだ。缶から口を離すと、少し長めのため息が出た。

「新月って、鈍いよなぁ……」

 浅見は呟きながら、二十メートルほど離れた書店を見た。先ほど、小鳥がひったくりに遭った場所。今は小鳥が店員に落し物について聞いているはずだ。

 男から取り返した鞄には財布が入っていなかった。浅見が見ていた限り、男が鞄から財布だけを抜き取るような暇はなかったはずなので、おそらくぶつかったときに鞄から落ちたのだろうと判断し、書店まで戻ってきたのだった。

 彼女が店員に質問している間、浅見は外で待っていることにした。そして書店から少し離れた自販機に寄りかかって空を仰ぎ見ていた。

(……疲れた。なぜ、二人でラーメンを食べに行くことが、こんなに大変なのだろうか……)

 待ち合わせに失敗したり、二人きりという状況を邪魔されたり、ひったくりを追い掛け回したり、落し物のために商店街を行きつ戻りつしたり……

 雲の割合が増してきた空を見ながら、浅見は思う。自分はもっと積極的に小鳥に好意を伝えていくべきなのだろうか? しかし自分としては既に充分に意思表明しているつもりだった。放課後に教室でラーメンを食べに誘ったのだって、浅見にしてみればデートに誘ったつもりだったのだ。だがそれは、小鳥から見れば、クラスメイトとご飯を食べる、程度のイベントでしかないようだった。あんなに緊張して声をかけたのに、それくらいでは報われないものなのか……

(挫けそうだ……俺はこれ以上の努力を重ねなければいけないのか……というか、いっそ告白してしまったほうが上手くいったりするんだろうか……)

 浅見は頭の中でシミュレーションしてみた。

『新月、好きだ!』

『はい! わたしも好きです!』満面の笑みを浮かべる小鳥。『ラーメンが!』

「…………」そんな返答は有り得ない、と言い切れないところが怖かった。

(とにかく、今日はもう早くラーメン食って帰ろう……)

 そこで浅見は、はっとして携帯を見た。

 六時四十五分。

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