ラーメンを食べに行こう!
〈17〉

 加賀美は向かってくる男を両腕で押し止めると、「小鳥さんの鞄を返してください!」と言って男を力任せに地面にたたきつけた。

 周囲にいた人々は唖然としていたし、浅見も同じだった。一番驚いていたのは地面にたたきつけられた男のようだった。まさか、か弱い女の子に力負けするとは想像もできなかったのだろう。というより、その場にいた誰一人としてこんな状況は予想できなかった。

 加賀美は浅見を見つけると、手を振って呼びかけた。浅見は軽く手を振り返して応えた。少しして、後ろから小鳥と咲もやってきた。

 浅見は加賀美のところまでくると、ふうと一息ついて男を見下ろした。四十歳くらいに見えるその男から鞄を取り返そうとすると、いきなり男が起き上がって浅見と加賀美を押しのけてまた逃走を始めた。不意をつかれたからか、今度は加賀美も普通に押し飛ばされて尻餅をついた。

「きゃっ!」

「加賀美!」咲が叫んだ。

「何するんですか!」加賀美が男に向かって叫びながら、右手をその方向にかざした。

 それと同時に、バン、と何か重たい物がぶつかったような音がして、男が前のめりに倒れた。一瞬のことで、浅見には何が起こったのか理解できなかった。理解しようとする前に、加賀美が「あ、鞄が!」と言って立ち上がって走った。

 小鳥の鞄は男が倒れるのと同時に手から飛んで離れ、すぐそばに駐車してあった軽トラックの荷台の上にのっていた。加賀美は軽トラックに近づいて荷台によじ登り、「鞄、取り返しましたよ!」と浅見たちのほうにむかって手を振った。

「加賀美、えらい!」咲が言った。「でも目立ちすぎだよ!」

「加賀美ちゃん、ありがとー」小鳥が手を振りかえして言った。「……って、あれ、加賀美ちゃんが遠ざかっていきますよ?」

 浅見もその光景を見ていた。加賀美が乗ったトラックが動き出していた。「ふぇっ、ど、どうしましょう!」加賀美は慌てふためいている。

「早く飛び降りて!」と咲がトラックのほうに駆け出しながら言った。

「と、飛び降りるなんて、」加賀美は荷台から下の道路を恐々とのぞいている。「……こわくてできないですよぅ〜……」彼女は荷台の縁につかまって情けない声を出した。

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