ラーメンを食べに行こう!
〈16〉
そこまで説明されて、ようやく浅見にも何が起こったのか理解できた。降って沸いた雑念を頭を振って払いのけながら、「新月はここで待ってて」と言って追いかける。走り始めると同時に、書店から出てきた咲と加賀美の姿が見えたが、かまっている暇はない。
午後六時を過ぎた商店街には学生や主婦、早めに仕事を上がった社会人などがひしめきあっていて、とても全力疾走で走り抜けることはできそうにない。しかし黒いコートの男は、通行人を弾き飛ばしながら走って逃げていく。
「泥棒です! 捕まえてください!」
浅見は叫んだが、すぐに反応してくれるような人は誰もいなかった。通行人の誰もが、何が起こったのかと興味をもった表情で走りゆく男と浅見を見つめているだけだった。
自分が追いついて鞄を取り返すしかない、と浅見は決心した。通行人を避けている余裕もない。浅見は通行人とぶつかりながらも、彼らをはねのけるようにして走り続けた。
「待て!」と叫んでから、古典的な台詞を言ってしまったと浅見は後悔した。勿論、前を走る男に止まる気配はない。
そうこうしてるうちに商店街の端、大きな道路と合流する地点が見えてきた。これ以上時間をかけると追跡はかなり困難になる。浅見はそう判断してスピードをあげたが、なかなか男には追いつくことができない。
男が一度だけ、こちらを振り返った。その顔には、自分の逃走を確信した笑みが浮かんでいた。
「くそっ!」一瞬、諦めそうになった浅見だったが、こうなったらとことんまで追いかけてやるという気になってきた。
男はついに商店街をあと数歩で抜けるところまで来てしまった。
と、浅見は男のすぐそばにいる人影が目に入った。それは、そこにいるはずのない人物――加賀美だった。
浅見が走り出したときには、確かに書店から出てくるところだったはずだ。自分も男も走ってここまで来たのだから、女の子が走って追いつくことは難しいはずだ。近道となる裏道でもあったのだろうか?
男は前から近づいていく加賀美を単なる邪魔な通行人としか見ていなかった。一声叫んで、加賀美を押しのけようとする。浅見は加賀美の無事を心配したが、それが杞憂であったことを次の瞬間に思い知った。
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