ラーメンを食べに行こう!
〈15〉

「浅見くんと教室でそんなに話したことってないじゃないですか」小鳥が言った。「浅見くんはわたしなんかと話してても楽しくないんじゃないかと思ってました。だから、ラーメンを食べに行こうって誘ってくれたときは嬉しかったですよ。浅見くんに嫌われてないってわかりましたし」

 嫌うも何も、大きく勘違いしている点を浅見は指摘したかったが、そんな藪から蛇を突くような真似をすることはできなかった。それは勇気ではなく蛮勇だ、と浅見は自分に言い聞かせた。

「だから是非、今日誘ってくれた理由も聞いてみたいんですけど。何か良いことでもあって気分が良かったから、とかですか?」

 そんなことを真顔で聞かれても浅見には答える術などありはしない。どうしろっていうんだ? と浅見は困窮した。咲と加賀美はまだ戻ってこないのか? どうやって小鳥の追求を逃げ切ればいいのか。咲がいてくれれば、まだ助けてくれたかもしれない……いや、事態をさらにややこしくして浅見を困らせて楽しむ可能性も考えられる。やはり自分で切り抜けるしかない……

 とにかく、さりげなく話題を変えて質問の矛先を逸らしてしまうことにした。

「だ、だ、だ、だ、だ、」しかし哀しいかな、極度のプレッシャーで浅見の舌はまったく回っていなかった。

「だ? 何ですか?」

「だ、や、違う。『だ』じゃない。『だ』じゃなくて、ええと……」浅見は真っ直ぐにこちらを見つめる小鳥の顔から視線をずらして別の話題を振ろうとした。「……そうそう、最近、うちの妹がさあ……」

「きゃあっ」

 いきなり小鳥が短く叫んで浅見に抱きついてきた。

 浅見は顔だけでなく全身から火が出そうなほど驚いた。体の各部に小鳥が密着している。色々な部分が接触していて、そのことについて深く考えようとした浅見は卒倒しそうになった。

「泥棒です!」小鳥が叫んだ。

「へ、どろぼう?」浅見が間の抜けた阿呆声で言った。

「鞄を取られました! あの黒いコートの人です!」小鳥は浅見の体から離れると、商店街の群集の中を走っている男を指差して言った。「後ろからぶつかってわたしの鞄を奪ったんです!」

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