ラーメンを食べに行こう!
〈12〉

 浅見は慌てて何か言い訳をしようとしたが、その前に咲が後ろを振り返って「浅見ってさ、怖い話が苦手らしいよ〜。加賀美のこと話したらビビッてやんの」と浅見の代わりにフォローを入れた。

「え」加賀美が驚いて咲を見た。「わ、わたしの何を話したんですか! え、え?」まるで自身に関する重大な秘密をばらされたように動揺している。

「いや、その」浅見が何か言い出す前に、再び咲が会話をつないだ。「嘘だって。やだなあ、本気にしないでよ」加賀美に向かって笑いかける。

 それで場の空気が和み、浅見をのぞく三人は互いに笑いあった。一人だけ乾いた笑いを浮かべる浅見に、咲がこっそりとつぶやいた。

「初心なのもいいけど、もう少しはっきりとした態度を取らないと小鳥には通じないよ。あの子、鈍いから」言葉の後に、くすくす、という小さな笑いがついていた。

 何か言い返そうとしたときには、咲は小鳥たちと別の話題で話し始めていたので何も言えず、浅見は気付かれないようにこっそりため息をついた。

「あ、本屋」咲が唐突に言った。「加賀美、商店街の本屋に寄ってくんでしょ?」

「ああ、そうでした! 忘れるところでした!」加賀美が大げさな手振りで驚きながら言った。「小鳥さん、浅見さん、ちょっと近くの本屋に寄ってもいいですか?」

「わたしは別にかまわないですよ」小鳥が言った。

 返事をする前に、浅見は携帯で時間を確認した。「……あと十分も歩かないで着くし、ラーメン屋の閉店が七時だから、まあ、そのくらいの余裕は充分あるな」

 書店は今歩いている商店街をもう少し進んだところにある。ラーメン屋に行くのにも通る道なので、遠回りになることもなかった。

「浅見くん、今は何時ですか?」小鳥が聞いた。

「六時二十分」反射的に答えてから、小鳥と目が合ってしまったことに気付いて浅見は思わず視線を外した。

「ん、どうかしましたか?」

「や、……何でもない何でもない」浅見はぶんぶんと片手を振って誤魔化した。

「ねえ、ラーメン屋の閉店ってさ、そんなに早いものなの?」咲が何気なくつぶやいた。

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