ラーメンを食べに行こう!
〈9〉


「そうなんだ、ラーメン食べに行くんだ。へー」にやにやと笑い続ける咲に向かって、浅見は文句あるのかと言いたげな視線で睨んだ。すると、咲がきょとんとした表情を作ったので、浅見は自分の態度が咲を黙らせたのだと思った。

 しかし、それにしては様子が変だった。

 咲はまるで浅見の言葉など気にしていない風に視線を誰もいない空間に逸らして、「……ふうん、アンタがそんなに積極的になるなんて、珍しいじゃないの」と呟いた。

「……?」その態度に浅見は首を傾げたが、隣を見ると小鳥のほうはなにやら思い当たる節でもあるような表情をして、咲と彼女の隣の何もない空間を見つめていた。

「……よし、そこまで言うなら、わたしが一肌脱ぐしかないか!」唐突に咲が言った。まるで、誰かと会話しているように。

「早野、何の話だよ?」

「ちょっと、二人ともここで待っててね! すぐ戻ってくるから!」

 浅見の問いを無視して、咲は駅のほうへと走っていった。咲の姿が見えなくなると、「なんなんだよ」と浅見は呟いた。どうやら小鳥は状況を理解しているらしく、「あ、たぶん加賀美ちゃんを連れてくるんだと思いますよ」と浅見に話しかけた。

 浅見が「誰、それ?」と聞き返す前に、駅のほうから咲が再び姿を現した。戻ってきた彼女の後ろにはもう一人、女の子がついてきている。咲は浅見たちのところまで走ってくると、「浅見、この子は加賀美っていう名前で、わたしの友達だから!」と、もう一人の少女を浅見に紹介した。

 加賀美と呼ばれた女の子は「えっと、はじめまして、浅見さん」と言って頭を下げた。

 浅見は突然の展開に面食らっていたが、小鳥の様子を見ると、どうやら加賀美とは面識があるようで、気軽に挨拶を交わしていた。

 一人だけ取り残された気分を味わっている間に、咲が決定事項と言わんばかりに宣言した。

「加賀美がどうしてもラーメン食べたいっていうから、わたしたちもついて行くことにしたから! 小鳥は放っておいたら引ったくりにでも遭いそうだし、浅見は頼りないしね! 反論は全て却下!」

 咲は呆然としたままの浅見を睨みつけてから、前に向かって一歩を踏み出し、右手を高々と振り上げた。

「それじゃ、みんなでラーメンを食べに行こうか!」

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