ラーメンを食べに行こう!
〈8〉
種を明かしてみれば、実に単純な話だった。浅見が待ち合わせ場所に指定した三倉駅の改札は二つあり、浅見は東口改札のことを言ったつもりが、小鳥は勘違いして西口改札で待っていたのだった。
「すみませんでした! わたしの勘違いのせいで、一時間も待たせちゃって……」
ぺこりと頭を下げて謝る小鳥に、浅見は慌てて言った。
「や、そんな、俺がちゃんと場所を伝えてなかったのが悪いのであって、決して新月に責任があるわけではなくて……な、なあ、早野?」
「全くその通りだね」咲は重々しくうなずいた。「小鳥、こんな頼りない奴と遊びになんて行かないで、わたしと本屋に行こうよ。その後、加賀美と三人でファミレスにでも寄って帰ろう」
そう言いながら咲は小鳥の手を取って歩き出そうとした。
「え、え、」小鳥は咲に引かれて、たたらを踏むように二、三歩よろめいた。
「って、こら、何を勝手に話すすめてるんだよ!」浅見の言葉を無視して、咲はかまわずに歩き出してしまう。浅見が無理矢理にでも咲を止めようと手を伸ばしたとき、その動きよりも早く行動したのは小鳥だった。
「咲ちゃん、ダメ!」
小鳥は咲の手を振り払って言った。「わたしは、これから浅見くんとご一緒するんですから!」
小鳥にしては珍しい大きな声での主張に、咲も浅見も一瞬、動きが止まった。二人とも目を丸くして咄嗟に言葉を返せなかったし、浅見に至っては顔が真っ赤に上気していた。
「……に、新月。あ、それって……」
「小鳥……? そんなにこいつがいいの?」
「そりゃそうですよ!」二人の戸惑いをよそに、小鳥は興奮しながら抗議した。「だって、浅見くんがいないと美味しいラーメン屋に行けないじゃないですか!」
一瞬の沈黙の後、あまりといえばあまりの言葉に、浅見はがくんと肩を落としてうなだれた。浅見のリアクションを見て、小鳥が心配そうに声をかけた。咲は浅見を指差して笑っていた。
「あ、あの、わたし何か変なこと言いましたか?」
小鳥の言葉に、浅見は乾いた笑顔で「や、何でもないから、本当に」と返した。
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