ラーメンを食べに行こう!
〈5〉
「いや、大した用事ではなくて……」浅見は再び己の勇気をふりしぼった。「なんというか、昼休みの話聞いたから、新月さえよかったら、俺の知ってるラー」
「委員長ばいばい〜」
「じゃあね、委員長〜」
「うん、ばいばい〜!」小鳥はそばを通った数人の女子と別れの挨拶を交わした。彼女たちが教室の外に見えなくなるまで小鳥は軽く手を振り続けた。「また明日ねー」
浅見は挫けそうだった。
「で、何ですか、浅見くん?」
小鳥がまた顔を向けた。勢いを完全に殺された浅見は数秒の沈黙。小鳥はその様子に首を傾げた。「何か、用事があるんじゃないんですか?」
「だからさ、俺と……というか、……えっと、俺、美味いラーメン屋知ってるんだけど、さ、……あ、嫌ならいいんだけどさ……何が言いたいかというと、だから、……新月、一緒に行かない?」
「え」小鳥は少し驚いたような表情で浅見を見返した。「ラーメン屋に、ですか?」
「あ、いや」唐突に恥ずかしくなってきて、小鳥から視線をそらして言った。「嫌ならいいよ、嫌ならっ」
「行きます!」
「別に無理に行こうって話じゃないし、たまたま今日の予定が空いてたら一緒に行こうってだけで、無理強いするつもりは毛頭ないし、こういうことはお互いの同意を得てからだよな、ってそれは違うけど、なんと言いますか……って、え、ん?」浅見は思わず聞きなおした。「新月、今、なんて?」
「行きますよ!」小鳥は期待に満ちた笑顔で言った。「美味しいラーメン屋ですよね! 是非、連れて行ってください。おねがいします!」
(うあ……)
浅見はその笑顔に、目眩を起こすほどの感動を覚えた。
「それで」浅見の心情など全く意識せずに、小鳥が笑顔で言う。「どこに連れて行ってくれるんですか?」
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