ラーメンを食べに行こう!
〈4〉

 改めて考えてみれば、と浅見は思う。自分は教室の中にいる彼女しか知らず、彼女の趣味や嗜好などについてはあまりに無知だった。五ヶ月間、学校内での観察ばかりを行っていたのだから当然といえば当然だ。さすがに日常的な会話を何度か交わしたことくらいはあったが、休み時間に仲良く会話するなんてことは一度もなかったといっていい。

 これじゃマズイ! ということに浅見は五ヶ月かけてようやく気付いた。なんとかしなければ! という焦りは浅見の中で大きく育っていた。

 昼休みの出来事は、浅見にとってハプニングでもあったがようやく巡ってきたチャンスにも思えた。この機会を利用して小鳥と仲良くなろうという計画が頭の中で組み立てられていく。希望を秘めたその計画が出来上がった頃には、既に今日最後の授業が終わり、放課後となっていた。考え事をしていた浅見は、授業が終わったことにも気付いていなかったが、とにかく放課後となった以上、計画を実行に移すにはこのタイミングしか残されていなかった。

 そこで冷静に考えれば日を改めるという選択肢もあったはずなのだが、幸か不幸か、脳内シミュレーションでテンションが上がっていた浅見はそのことに思い至らなかった。

 委員長である小鳥の号令がかかり、クラスメイトたちが帰り支度を始める。すぐに全体の三分の一くらいが教室を出て行く。

 浅見は誰にも気付かれないよう、小さく三回だけ深呼吸をした。帰り支度をしている小鳥のほうを見て、心の中で気合を叫び、ゆっくりと彼女のところへ歩いていった。

 十分に近づいたところで、浅見は「あ、ぁのさ」と言った。注意していたつもりだが、声は裏返っていた。

「ん」小鳥が浅見を見た。「何ですか?」

 小鳥と目が合った瞬間、気持ちが挫けそうになったが、目の前に立った以上はもう後には引けず、覚悟を決めるしかなかった。

「あのさ、新月」今度は逆に小さな声しかでなかったが、とにかく浅見は言いたいことを言おうとした。「今日、暇だったら、俺と」

「小鳥! それじゃまた明日ね!」

「あ、ばいばい、咲ちゃん! また明日ねー」小鳥の後ろを通った咲が元気良く挨拶していき、小鳥は大きな声でそれに応えた。それからまた浅見に振り向いて、「で、どうしたんですか」と言った。

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