ラーメンを食べに行こう!
〈3〉

「びっくりさせないでくださいよ、咲ちゃん」先ほどの怒りなどなかったかのように、いつも通りの笑顔を作る小鳥。咲は若干ひきつった笑顔で「あ、うん、ごめんね、本当に」と答えた。

「まったく、人騒がせにもほどがありますよ……なんだって、そんな……」教室にいた全員が、次に続く言葉に集中した。「……ラーメンなんて店で食べようがコンビニのカップ麺だろうが一緒だなんて、どうしてそんな言語道断極まりないことを言うんですか?」

 その瞬間、これまで密やかに築かれてきた新月小鳥にまつわる諸々の既成概念が崩れていく音を、教室にいた生徒全員が確かに聞いた。ラーメン如きでそこまで激昂するものなのか? と誰もが現実を受け入れることに抵抗を抱いた。浅見においては、言うまでもなく。

 小鳥は頭に手を当てながらため息をついた。「まったく、信じられないですよ……冗談にしたって、悪ふざけが過ぎます」

 ようやく落ち着きを取り戻した小鳥に呼応するように、少しずつ教室の喧騒も戻ってきた。誰もが小鳥の意外な反応に驚いたのは確かだが、そのリアクションの原因がわかればある程度は納得できるものだ。納得してしまえば、興味というのは急速に消失する。数分後には、小鳥の動向をチェックし続けているのは教室中で浅見ただ一人となっていた。彼は勿論、目と耳の集中を解いていなかった。

「うん、まあ、今のはわたしが全面的に悪かったということで……」まだ少し歪んだ笑みの咲が言った。「でもさ、それにしても、小鳥ってそんなにラーメン好きだったの?」

 咲の言葉に、小鳥は大きくうなずいた。

「そりゃもう大好きですよ!」

 浅見は確かにその言葉を聞きとめた。

 小鳥はさらに「美味しいラーメンが食べられるなら、たとえ火の中、水の中、ですよ!」と言った。

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