ラーメンを食べに行こう!
〈22〉

「うぅ、すごい雨です……」浅見のもとにやってきた小鳥は、肩を落としてつぶやいた。「服とか、すっかり濡れてびしょびしょです……」そう言ってから、浅見が妙な表情で自分を見ていることに気付いて小鳥は慌てて体を隠そうとした。「……あの、服とか、透けてたりしないですよね?」

「いや、そんなことはないけど」浅見は嘘をついた。「……というか、よくこんな雨の中を走ってきたな、新月」

「そりゃ、もちろん!」小鳥は笑顔で言った。「ラーメンを食べに行くためじゃないですか!」

(ああ、そうだ……)と浅見は思う。(自分は、この真っ直ぐさとか、普段は隠している意志の強さとか、そういうところに、こんなにも惹かれたんだ……)

「時間がないんですよね、早く行きましょう!」

 小鳥は力強く言って、雨の中に走り出す構えをとった。

 浅見はそれが何よりも嬉しかったし、何よりも自分にとっての励みとなった。もう疲れがどうの、夕立がどうの、なんて考えなくて済むようになった。

「よし、店は商店街を抜けて右に曲がった先にあるから、そこまで走っていくぞ!」

 浅見の言葉に、小鳥が「はい!」と返事をした。

 そして二人は、夕立の中を走り出した。大音量の雨に打ちつけられて、服は下着までびしょびしょになりそうだったが、それでも二人は前を向いて笑いあいながら走っていった。


 ――もうすぐラーメンが食べられる!

 浅見は思った。

 それはきっと、今までの人生で食べてきたもののなかで、一番美味しいに違いない、と。
〈了〉

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