ラーメンを食べに行こう!
〈1〉

 新月小鳥は、クラスメイトから「マイペース」「おっとりしている」「天然ボケ」などと評されることが多い。彼女のことを多少なりとも知っている人物なら、それらの意見に首を捻ることはないだろう。それでいて、学年が上がってクラス替えが行われた直後の委員会決めで、誰もが学級委員長を敬遠している空気を読み取って立候補するような積極性も、彼女は持ち合わせていた。

 そして彼女は委員長となった。それは、「誰が委員長になろうが自分でさえなければ関係がない」という消極的な賛同の結果というより、クラスメイトの誰もが(まだ彼女の名前と顔を覚えていないクラスメイトまでが)「彼女ならこのクラスを上手くまとめてくれるだろうな」という不思議な安心感を覚えたためだった。

 そんなふうに、新月小鳥は意外なところで思い切りの良い行動力を発揮した。周囲の人間も、それは「なんとなく」理解できたが、彼女の普段の言動からはそういう印象が感じられなかったので、彼女の人格を正しく感じ取っていた人物は彼女の周りにほんの数人しかいなかった。

 彼女のクラスメイトである浅見大介は、その数人のうちの一人だった。

 浅見がそのことに気付いたのは、委員長を務めることとなった小鳥が少し照れながら「えと、どうも、新月小鳥です」と教卓で就任の挨拶をしているとき――いや、それよりも前の場面、一瞬しんと静まり返った教室の中、ゆっくりと右手を挙げて立候補する彼女を見たその瞬間。なぜその瞬間なのか、浅見本人にもよくわからなかった。もしかしたら自分は女の子の横顔に弱いのかもしれない、と浅見は思った。なぜなら浅見の席からでは彼女の横顔までしか見えなかったからであり、正面からの顔を見たのは彼女が教卓のところに立ってからであって、――いや、そんな本人にも断定しきれない検証はさておき、とにかく、それは浅見大介が新月小鳥の横顔を見つめた瞬間に起こった。

 浅見大介は、新月小鳥に一目惚れをした。

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