オレンジ色の光がゴツゴツと山並みをえぐっていた。太陽がもうすぐ山の端に隠れようとしていた。カラスが頭の上を飛んでいる。夏。歩いていた。ザックを担ぎ、登山靴。暑い暑い。もうすぐ麓につく。下山をしている。そう高い山じゃない。里山だ。小学生が遠足に行くような山。でも、山は山だ。空気は綺麗で気持ちが良かった。これから下山して電車に乗って街にもどるんだ。ふと目を落とす。赤く動く物。赤い鞠。ころころと薮の中から転げ出してきた。赤い着物。おかっぱ頭。女の子。びっくりしたような目で僕を見る。下山中だけどまだ山の中だ。ここらに離れた家があるのかな。ときどきびっくりするほど高い場所に人家があったりする。赤い赤い浴衣。僕は立ちすくんでじっと女の子を見る。女の子もじっと僕の方を見る。見つめ合い、変な空気がながれる。「君は、ここらへんの子かい?」あたりはだんだん暗くなる。太陽は山に半分噛み砕かれて僕と女の子のいる森はひっそりと暗くなり始めていた。逢魔が時。って言うんだよな。と不意に思い出す。それではこの子は狐かね? 今時珍しい鞠を持っていた。カラーボールなどではない、和風の鞠。「街からきたのか」「うん、歩きに来た」女の子は頷く。「なんとまあ、街では変な格好が流行っているのだな。兵隊さんみたいだぞ」兵隊さんねえ。山歩きの格好を見ればそう見えなくも無さそうだ。「僕は学生だ君は」女の子は答えない。鞠を抱くようにじっと僕を見る。「おまえ、似てるな……」「誰に」「待ってるんだ」「待ってる?」「ずっと」「誰を?」女の子は答えない。じっと下から僕を見る。柔らかそうな白い肌だった。真っ黒で光るような髪だった。「遊ぶか?」不意に女の子は言った。「今から? もう日が暮れるよ」「日が暮れてからの遊びだ」女の子は帯をずらし前を開く。白いお腹が暗い森に輝くようだ。僕は喉を鳴らす。鳴らす。この子は何だ? 笑みを浮かべて少女は僕を見る。「来い」そして薮の中に飛び込んでいった。僕は思わず追いかけて行く。体の中心が固くしこって熱を持ったようになっていた。追いかける。少女は着物をはだけ、走る。笑う。笑い声が風に溶ける。日は落ちる。夜の闇が駆け足でやってくる。森の中は暗い。少女の肌だけが白い。「来い、来い、来いっ」僕を呼ぶ、僕を呼ぶ。河に出た、渓谷に出た。岩の上に彼女は立ち大人のような目で僕を見る。「抱け」赤い浴衣が風に乗って飛び、沢に流れる。僕は女の子の肩を掴んだ。冷たくてすべすべした肌。下から女の子は嫌な感じの目で僕を見上げる。「名は?」「義郎」「そうか、私は志乃」慣れた感じで志乃は僕の体にからみつき、まさぐり、舐めあげていった。いつの間にか僕も全裸になり、岩の上で志乃の体を抱きすくめている。夜風が肌を刺し、志乃と接した皮膚だけが燃えるように熱い。ゆるゆると二人で溶け合う。椿油のような匂いがする。沢の水の音にまじり志乃のあえぎが甘い。「よう帰ってきた」「帰ってきた?」「汝は帰ってきた」「僕はこの山は初めてだ」「では、汝の兄か」「兄はいない」「父か」「父は」いる「どうでもよい、血を引いているなら同じ事。帰ってきたのだ」「いつ頃の事だい」「遥か昔だ」「おまえは……」ゆっくりと志乃の中で果てる。体液が吹き出した感触共に志乃の体が溶けるように消える。気がつくと一人。渓流の中州の岩で全裸で中腰だった。志乃の瞳孔のように丸い月が頭上で僕の尻を照らしていた。

text by KAWAUSO U-tan
2006/11/16
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